「塗装なんて、ただ色を塗るだけでしょ?」
もしそう思っているなら、それは非常にもったいない誤解です。
僕は現在、コンクリート再生プラントの現場で溶接やガス溶断などの作業を行っています。しかし、僕の現場キャリアの原点にあるのは「建築塗装」の世界です。
一見、豪快に色がついていくように見える塗装の仕事。ですが、その本質は驚くほど繊細で、論理的。そして、何物にも代えがたい「究極の達成感」に満ちています。
今回は、元塗装工としての経験を持つ僕が、現場を渡り歩いてきた今だからこそ再認識した「建築塗装という仕事の本当の魅力」について、忖度なしのリアルな視点で語ります。
この記事を読み終える頃には、塗装工のイメージが大きく変わることでしょう。
塗装工は大別すると2種類。長所の違う塗装工達

一口に塗装工と言っても大きく分けると野丁場の塗装工と町場の塗装工に分けることが出来ます。一見しただけでは見分けが付きませんが、同じ塗装でも求められるものが違います。まずはその違いを紹介しましょう。
野丁場の塗装工
野丁場とは、ショッピングモールや高層ビル、マンションなどの大型建築現場を指します。基本的にはゼネコンが元請けで塗装会社などは下請けになります。
野丁場は元々、町場の職人が蔑称として付けたようですが、現在ではそのような差別的な意味は殆どないですね。実際に、僕やその周りでも「自分たちは野丁の職人だ」と誇りを持っていました。
野丁場の最大の特徴は仕上げの品質にあると僕は思っています。スーパーゼネコンなどの監督は非常に見る目が厳しく、適当な施工では絶対に指摘されてしまうでしょう。また、作業手順書や工程表などが厳格に決められているので、自己流の塗装や遅れは許されません。
また、野丁場の塗装工は割合的に内装が得意な方が多いのも町場とは違う点でしょう。大型の現場は基本、外装よりも内装がメインです。そのため、パテ処理や鉄部塗装がメインになります。僕自身、外壁よりも内装の方が上手かったでしょう。
町場の塗装工
僕は野丁場育ちなので、町場の現場はそれほど多くは経験していません(もし「それは違うぞ!」という町場のプロがいたら、ぜひコメントで教えてください!)。
町場の塗装工は一般の方にとっては最も馴染みのある職人と言えるでしょう。一般住宅の塗替え工事などを行っているのが町場の塗装工です。一般住宅だけでなく、地場の建設会社の工事に参加しているのも町場の塗装工に当たります。
町場の塗装工の最大の特徴はスピード感だと思います。一般住宅の塗り替えは、まさにスピード勝負の現場です。一般住宅の現場は、そこに施主の「生活」があります。養生で窓を塞げば風は通らず、洗濯物も干せません。この不自由な時間をいかに短く、かつ綺麗に仕上げるか。また、工事に時間が掛かるということは人件費が上がり、結果として工事費が高くなる原因にも。
このようなことから町場の塗装工は施工にスピード感があります。一方で、野丁の塗装工と比較して内装は苦手な方が多いです。
塗装工によってもそれぞれに特徴が異なることを覚えておいてください。
塗装の8割は「塗る前」に決まる。知られざる下地処理の世界

ペンキで塗っているだけと思わている塗装工。しかし、最も大切なのは塗る前の準備段階です。
実は、ローラーで壁をコロコロしているのは若手だったりすることも珍しくありません。先輩達が何をしているかと言うと下地作りです。
なぜ、経験のある塗装工が下地作りに心血を注いでいるのか紹介しましょう。
下地作りが塗装の質を左右する
内装の塗装における最も大切なことはボードの下地です。
住宅でもマンションでも建物内の壁は基本的に石膏ボードと呼ばれる板が裏に隠れています。
その石膏ボードの上に塗装や壁紙を施して、デザイン性や耐久性を高めているんです。
この石膏ボードは何枚も並べて壁にしているので、必ず継ぎ目が生まれてしまいます。
継ぎ目を無視して塗装すればその跡が出てしまい、違和感を覚えるでしょう。
また、ボードはホッチキスのようなタッカーというもので固定するので、壁一面にホッチキスの跡のようなものもあります。
塗装や壁紙を貼る前にはパテと呼ばれる充填剤を継ぎ目やタッカー跡に施します。
このパテが塗装においてはとても重要。
厚くパテを塗ると継ぎ目を消すためのパテが盛り上がって見えて、意味を成しません。
パテ処理は本当に熟練の技術が必要で、素人とプロの差が顕著に現れます。
プロはギリギリまで薄くパテを施すので、後の紙ヤスリで削る作業も殆ど必要がありません。
また、プロは削る作業においても目と手の感覚を研ぎ澄ませるので触っても分からないほど平滑な壁を作ります。
このようなことから、熟練の塗装工は塗りよりも下地作りに神経を注いでいます。
僕はただのボードの連なりが壁になるというパテ処理が最も好きでした。
因みに野丁現場では、パテ処理しか経験がないという塗装工の方もいます。
洗浄こそが10年後の建物を守る
外壁の塗装で最も大切なのは洗浄でしょう。
一般住宅の塗替え工事において、一番初めに行うのは洗浄です。
この洗浄では外壁についた汚れや苔などをしっかりと洗い流します。
特に日陰になりやすい場所では、苔が大量についているので時間も掛かりますね。
通常、塗替え工事の営業などが来ると新技術の塗料などをセールスポイントとして細かくアピールしていると耳にします。
塗料には様々な種類があり、実際に塗料によって耐久性や遮熱性能などは大きく異なるでしょう。
僕も塗替え工事ではフッ素系塗料など高級なものを選んだ施主に何度も出会いました。
フッ素系塗料は耐久性が高いのが売りですが、前提条件として下地の良さがあります。
塗り替え工事における下地とは外壁で、もっと言えば汚れていない外壁です。
ゴミや苔がついているような壁では、フッ素系塗料の売りである耐久性は保てません。
残念ながら塗替え工事の業者の中には洗浄で手を抜いている事もあります。
実際に僕が塗り替えを担当した住宅は2回目の塗替え工事でした。
高圧洗浄機で屋根の洗浄をしていると以前の塗装が何度も剥がれます。
確認してみると塗装の下に苔があり、塗膜が密着していませんでした。
この様に外壁工事で大切なのは塗料の質ではなく、最も基礎的な洗浄です。
もし塗り替えを検討している方がいたら、洗浄に1日使っているか確認するのがおすすめ。
真面目に洗浄するとなれば、1日は掛かる作業ですからね。
感謝と自己研鑽。これこそが塗装工の「究極の達成感」

どんな仕事でも’達成感‘や’やりがい‘を感じなければ中々続けることは難しいでしょう。
塗装の現場には、単なる作業を超えた「やっていて良かった」と思える瞬間がいくつも転がっています。
僕が特に達成感ややりがいを感じた場面を紹介しましょう。
技術の向上をしっかりと感じる塗装
塗装工に限った話ではありませんが、続けていると必ず技術の向上を感じる場面があります。
新人の塗装工は先輩からローラーを扱う際に、縦と横の十字のように塗れと教わります。
初めの頃は塗料を均等に配る事が出来ないので、縦と横にローラーを動かすことで塗料が均等になるんです。
僕自身も最初の頃はしっかりと十字にローラーを動かしていました。
しばらく続けていくと段々と塗料の配り方が分かるようになってきます。
縦にローラーを動かすだけでも均等に配れるようになると新人卒業の一歩手前。
そこからはスピードが早くなり、塗れる面積も大幅に広がりました。
塗装工は職人の中でも作業の種類が多いと言われていて、常に技術を吸収しなければいけません。
その中で、自分の成長を感じるのがモチベーションになりました。
施主や監督からの「ありがとう」は報われる時
施主や監督から感謝を伝えられるとシンプルに嬉しかったです。
僕が初めて担当した一般住宅の塗替え現場のエピソードがあります。
施主と毎日コミュニケーションを取るようにして、なるべく要望に沿うように工事を行いました。
完成した時の最後の会話で「次、塗替えするときもヤモリさんにお願いしますね」と言われたことは今でも覚えています。
残念ながら、既に塗装工を辞めてしまったので実現できませんが、その言葉には大きな達成感がありました。
直接、施主とは関わる場面のない野丁現場でも様々なやりがいを感じる場面があります。
野丁現場はスケジュールが緻密に組まれているので、遅れは許されません。
しかし、現実的に無理な工程もあります。
僕が職長をしていた現場で、実際にそのような場面がありました。
ゼネコンの監督がバツの悪そうな表情で最新の工程表を渡し、「何とかなりませんか」と相談してきます。
通常であれば3日間は欲しい作業が工程表には1日しかありません。
監督も無理なことは承知で、僕に相談しているのでしょうから受け入れるしかありません。
僕の方で他業種の職人さんと交渉をして、最終的にはトラブル無くその場所の工事を完了。
監督からは「本当にありがとう!ヤモリさんじゃなきゃダメだったよ」と言ってくれました。
黙々と作業をしているだけのように思われる塗装工ですが、感謝の言葉を受ける機会は多くあります。
また、そのような言葉があるからこそ続けられたのかなと思いますね。
プラント作業員になった今、改めて思う「建築塗装」の価値

今現在、僕はコンクリート再生プラントの作業員として働いています。
一見すると、関係ないような業種。
しかし、塗装工時代の経験があるからこそ活躍出来ているんです。
溶接やガス溶断の現場でも活きている「丁寧な仕上げ」の精神
プラントの修理ではアーク溶接やガス溶断などの作業があります。
プラントでは機械が問題なく機能するかを重視。
見た目や耐久性に関しては軽く見られる風潮があります。
しかし、僕は溶接一つとっても、その「ビード(溶接跡)の美しさ」や「施工後の防錆塗装」に徹底的にこだわります。
これは単なる綺麗好きではありません。
塗装工として「下地」と向き合ってきたからこそ分かるのです。
表面が汚い溶接は、往々にして内部まで熱が回っておらず、強度が足りない。
塗装工時代に培った目は確実にプラントの作業においても活きている証拠です。
建築塗装は繊細な技術と精神を育む仕事
僕が思う塗装工の魅力はご理解頂けましたか?
ただ塗っているだけではないですよね。
僕は塗装工という経験をしたことで様々なスキルが身についたと思っています。
それは塗装の技術だけではありません。
周りとのコミュニケーション能力や現場全体を把握する力。
もしかしたら、自覚していないものもあるでしょう。
塗装工という下地があったからこそ、プラントでも活躍できている。


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